13骨
ああ、そうか。そうなんだ。
ぼくはなにひとつてにいれてなくて。それどころか、ぼくじしんもそんざいしてなくて。
だからこそ、ぼくがここにいていいと、かくしんするために、すべてをまっかに。
できなかったんだ……。
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「せす!」
たどり着いた体育倉庫。
縄のところで座り込み呆然としているせす。
先ほどから何度呼びかけても反応がない。
外傷もないみたいだし、呼吸も脈拍も、まばたきすらきちんとしている。
だけれど、意識がないというか、どっか別の世界に行っちゃってるというか。
「せす!」
呼びかけても、揺さぶっても、なんら反応がない。
「おい!」
急いで病院まで運ぶ。背中のせすは大人しく俺につかまっていた。
病院で検査をしても何も問題はなくて。
だけど、こいつは全然反応しなくて。
心因性だとかなんだか言っていたけど、正直、俺はどうしたらいいのかわからなかった。
後は医者にまかせて、俺は一度家に戻る。
けれど、親に怒られても、寝ようとしても、あいつのことが頭から離れない。
ああ、何か思い出しそうなのに。
同じ思いを昔味わった気がするのに。
思い出せない。
翌日、新妻たっての希望で、せすのところに2人で訪れた。
学校で説明しておいたが、しかし、せすの状態には驚いていたようだ。
まぁ、聞いていたせすは「暴力的で子供っぽい」はずなのに、「無感情で動かない」せすを見たんだ。驚くだろう。
いや、そういう話じゃない。
一晩たっても、あいつは全然変わらなくて。
医者の話によると、昨夜はきちんと寝たらしい。
しかし、起きても、せすは何にも反応することがなくて。
ああ、何を間違えたのだろう、俺は。
俺の所為じゃないかもしれないし、俺の所為かもしれない。
しかし、俺が何かしていれば、こいつを救えたのかもしれない。
そう思うと、どうしようもなくて。
「飛鳥、ちょっといいかな」
新妻が連れ出してくれるまで、俺はせすのもとから離れられなかった。
屋上で風に吹かれる。
自責の念にかられていると、新妻が口を開いた。
「あのね、飛鳥。うたさんの虚言がどこまで本当かわかったよ」
「え?」
まとめてきたらしいメモ帳をパラパラとめくり、ひとつずつ真実が判明する。
両親と同居していないのは、本当で。
せすから逃げるためというのは嘘。
だけど、何故別居することになったかというと、それはうたの所為で。
もう中学生だし、私とせすでなんとかなるわと言ったのが3年前。
それを信じた親が、せすとうたを引越し先の海外に連れて行かなかったらしい。
せすは、3年前からあんな状態だったというわけで。
せすが虐待される理由は、うたの嫉妬。
親からの電話は、両親に嘘をついてまで、せすに話させなかったらしい。
そして、せすの叔父による……いや、これは言わないでおこう。
「一昨日と昨日、うたさん、叔父さんの家に泊まったみたい。だから居なかったんだよ」
うたの嫉妬の内容は、最後まで教えてくれなかったが、よくそんなの調べられたなと感心する。
本人が教えてくれたんだ、と物悲しそうに新妻が呟く。
こいつとうたの間に何があったのかは知らないが、情報に心から感謝する。
「あとね、明日、ご両親帰ってくるから」
「え、なんで?」
「うたさんがね、呼んでくれたんだ。妹さんのことは言わずに」
うたはまだ、せすのことを好きじゃないらしい。
たぶん、新妻がなんかしらしてくれたんだろう。こいつにはしばらく頭が上がらないな。
「じゃあ、明日になれば」
「うん。もしかしたら、妹さんももとに戻るかも」
うたさんの親に言うための、言い訳も考えとかないとね。
そう笑ってつけたした新妻は、時計を見てから病院を去っていった。
また、うたのもとに行くのだろうか?
それよりも、明日、決着がつく。
戻らないかもしれないけれど、戻るほうに俺は賭けたい。
どうあがこうとも明日。
俺は青い空に向かって、いるかどうかわからない神に祈りを捧げた。
続く
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