13骨


 ああ、そうか。そうなんだ。
 ぼくはなにひとつてにいれてなくて。それどころか、ぼくじしんもそんざいしてなくて。
 だからこそ、ぼくがここにいていいと、かくしんするために、すべてをまっかに。
 できなかったんだ……。

******

「せす!」
 たどり着いた体育倉庫。
 縄のところで座り込み呆然としているせす。
 先ほどから何度呼びかけても反応がない。
 外傷もないみたいだし、呼吸も脈拍も、まばたきすらきちんとしている。
 だけれど、意識がないというか、どっか別の世界に行っちゃってるというか。
「せす!」
 呼びかけても、揺さぶっても、なんら反応がない。
「おい!」
 急いで病院まで運ぶ。背中のせすは大人しく俺につかまっていた。


 病院で検査をしても何も問題はなくて。
 だけど、こいつは全然反応しなくて。
 心因性だとかなんだか言っていたけど、正直、俺はどうしたらいいのかわからなかった。
 後は医者にまかせて、俺は一度家に戻る。
 けれど、親に怒られても、寝ようとしても、あいつのことが頭から離れない。
 ああ、何か思い出しそうなのに。
 同じ思いを昔味わった気がするのに。


 思い出せない。


 翌日、新妻たっての希望で、せすのところに2人で訪れた。
 学校で説明しておいたが、しかし、せすの状態には驚いていたようだ。
 まぁ、聞いていたせすは「暴力的で子供っぽい」はずなのに、「無感情で動かない」せすを見たんだ。驚くだろう。
 いや、そういう話じゃない。
 一晩たっても、あいつは全然変わらなくて。
 医者の話によると、昨夜はきちんと寝たらしい。
 しかし、起きても、せすは何にも反応することがなくて。
 ああ、何を間違えたのだろう、俺は。
 俺の所為じゃないかもしれないし、俺の所為かもしれない。
 しかし、俺が何かしていれば、こいつを救えたのかもしれない。
 そう思うと、どうしようもなくて。
「飛鳥、ちょっといいかな」
 新妻が連れ出してくれるまで、俺はせすのもとから離れられなかった。


 屋上で風に吹かれる。
 自責の念にかられていると、新妻が口を開いた。
「あのね、飛鳥。うたさんの虚言がどこまで本当かわかったよ」
「え?」
 まとめてきたらしいメモ帳をパラパラとめくり、ひとつずつ真実が判明する。

 両親と同居していないのは、本当で。
 せすから逃げるためというのは嘘。
 だけど、何故別居することになったかというと、それはうたの所為で。
 もう中学生だし、私とせすでなんとかなるわと言ったのが3年前。
 それを信じた親が、せすとうたを引越し先の海外に連れて行かなかったらしい。
 せすは、3年前からあんな状態だったというわけで。
 せすが虐待される理由は、うたの嫉妬。
 親からの電話は、両親に嘘をついてまで、せすに話させなかったらしい。
 そして、せすの叔父による……いや、これは言わないでおこう。
「一昨日と昨日、うたさん、叔父さんの家に泊まったみたい。だから居なかったんだよ」
 うたの嫉妬の内容は、最後まで教えてくれなかったが、よくそんなの調べられたなと感心する。
 本人が教えてくれたんだ、と物悲しそうに新妻が呟く。
 こいつとうたの間に何があったのかは知らないが、情報に心から感謝する。
「あとね、明日、ご両親帰ってくるから」
「え、なんで?」
「うたさんがね、呼んでくれたんだ。妹さんのことは言わずに」
 うたはまだ、せすのことを好きじゃないらしい。
 たぶん、新妻がなんかしらしてくれたんだろう。こいつにはしばらく頭が上がらないな。
「じゃあ、明日になれば」
「うん。もしかしたら、妹さんももとに戻るかも」
 うたさんの親に言うための、言い訳も考えとかないとね。
 そう笑ってつけたした新妻は、時計を見てから病院を去っていった。
 また、うたのもとに行くのだろうか?

 それよりも、明日、決着がつく。
 戻らないかもしれないけれど、戻るほうに俺は賭けたい。
 どうあがこうとも明日。
 俺は青い空に向かって、いるかどうかわからない神に祈りを捧げた。




続く







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