「あはははははははは!」
 今日はなんだか気分が良い。
 全てがぼくの思うとおりだ。
 ああ、ゆかい。

12死体の傍ら


 いつも居なくなる飛鳥も、真っ赤に染まればぼくのそばにいてくれる。
 今までねーちゃんが隠してた鳥もうさぎも犬もねこも、みーんなぼくのそばにいる。
 ああ、なんて楽しいんだ。
「はじめからこうすればよかったんだよ」
 先ほどから目を開けない飛鳥をもう一度殴る。世寿に見せつけるように。
「ほら、ぼくの言ったとおりじゃない?」
 ありえないくらいあっけなかった。
 飛鳥はぼくがぼくだってことに気づかない。
 途中から代わったから、気づくかなとひやひやしたけれど。
 ねぇ、意外と君もぼくらのこと見てないよね。あははははははは。

 ―でも、うごかない。
「動かなくてもそばに居てくれればいい」
 ―話しかけてくれない。
「話さなくてもそばに居てくれればいい」
 ひりひりと痛むほっぺたを触り、ぼくはつぶやく。
「痛い思いはもう嫌だ」
 ぼくと世寿で半分こ。
 痛みも半分、嬉しいことも半分。
 だから、耐えられる。
「ね、素晴らしいよ、ここは。ねーちゃんは来ないし。世寿も飛鳥もみーんないる」
 ―ねーちゃんは、大切……
「あんなものいらない。いつまでも騙されないで。ね、世寿」
 ぼくらを守るためなら、ぼくは何だってするよ。
 世寿が大事がるから今まで何もしなかったけど、ねーちゃんだって真っ赤に染めれるよ。
 だって、そのために君がぼくをわけたんだから。そうでしょう? ねぇ、世寿?

「う……うぅ」
「なに?!」
 ぴくりとも動かなかった飛鳥が身じろいだ。
 真っ赤に染まってるのに……。
「こ、ここ……は……」
「飛鳥!」
「せ、す……?」
 信じられない。なんで。なんで動くの?
 ―ありえないありえないありえないありえないありえない!
「ごめんね、ごめんね。痛いよね。せすがごめんね」
 飛鳥の頭を撫ではじめる世寿に怒りを覚える。
 ―なにやってんの!
「だって、飛鳥痛いよ?」
 ―飛鳥にはもっと真っ赤になってもらわないと。
「いやだよ。ぼくも痛いの嫌だ。飛鳥も痛いの嫌だ。殴っていいけど、殴っていいんだけど、でも……」
 ―いいから、はやく代わってよ。飛鳥真っ赤にするんだから。
「な、に……話して……」
 息をするのもおっくうという感じで飛鳥が喋る。
 ああもううるさい。しゃべるなしゃべるなしゃべるな!
 痛いのは嫌だ。でも、せすが痛いのはもっと嫌だ。
 ぼくが存在する理由。ぼくがここにうまれた理由。
 みーんな真っ赤にしたら、最後には消えてあげるから。だから――

 世寿を無理に押しのけて、近くにあったプラスチックの花瓶をつかんでもう一度――


「何やってるの?!」
 飛び込んできた、看護師にぼくは押さえ込まれた。





続く







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